ほも、26歳。

ほも。26歳。ダメ人間。

ねばついた暗闇

 

七月に父方の祖父が死んだ。

仕事を休み、久しぶりに実家へと飛んで帰った。

実家に帰るときはいつも、誰かが死んだ時だった。

 

葬式の朝、

父が喪服のズボンを片手に

「これ、入らないんだけど」としきりに言い出した。

私と違い、父は太っていない。むしろ歳を重ねただけ体は痩せていっている。

私は父の持っているズボンを受け取り、ボタンとフックを外してやった。

父は「あぁ、なんだそうか」と笑ってズボンをはき始めた。

 

「お父さんが死んで、兄があんなになっちゃって二重にショック」

近所に住んでいる叔母が顔を歪めてつぶやいていた。

父は軽度の認知症だとは聞いていたが、祖父の死で〝おかしな行動〟が増えてしまったと母は言った。

 

葬式でも、来場者への挨拶は私が行った。

事前に用意されたカンペを読むだけの作業であったが、父は同じところを何度も読んでしまうためにそれができないとのことだった。

 

葬式が終わって親戚一同で飯を食べた。

そこで簡単な挨拶をしようとした父だったが、

たった数秒の挨拶も忘れてしまい、「パス」とおどけて母に投げてしまった。

それを見た親戚たちはみな苦笑いだったし、厳しい目をしている人もいた。

 

祖父はほとんどお金を残さなかった。

残ったのは葬儀や法事などの支払いだった。

 

母からの電話。

いつものことなのだが、祖父の葬儀以来今まで以上に金の話をするようになった。

私は思わず「そんな話ばかりするのはやめてよ」と声を荒げてしまった。

誕生日に祝いの言葉の一つもなく、金の請求をされたのが嫌だった。

 

母は声を震わせて「あんたのためにどれだけのことをしてきたと思っているんだ」と言った。

 

湿り気を帯びてねっとりとした暗闇をはらんだまま

今年の夏も終わろうとしている。